ウェブの未来は若者のものじゃよ─『ウェブはバカと暇人のもの』

当方バカで暇人ですが、この本の著者さんのインタビューが面白いなぁと思ったので、本も読んでみました。おもろかった。

ウェブはバカと暇人のもの (光文社新書)
中川淳一郎
光文社
売り上げランキング: 701
おすすめ度の平均: 4.0
4 ここでレビューを書くのもほどほどにしなければw
3 ネットで騒ぐ人やこの著者共々
5 ああ、すっきりした!
1 馬鹿なのは日本のウェブ普及率も知らず騒ぎ立てる作者の方
4 二度読んで、やっといい本だと分かった

釣りだけど真っ当なインタビュー。

中川淳一郎氏に聞く「ブロガーイベントはなぜ終わったのか」

──ツイッター、話題ですね。

中 何が面白いか分からなかったので、この前ビール5リットル飲んで完全に酔っ払った状態で捨てアカ取ってツイッターに卑猥なことを書き続け、有名ツイッターユーザーに返信しまくりました。ちょっと書くだけで、海外のエロスパムツイッターユーザーがバシバシオレをフォローしてくれて面白かった。隣に酔っ払った友達が隣にいたので、そいつと一緒に延々卑猥なことを書きまくったら楽しかった。でも、一人でやろうとはまったく思いません。

このtwitterの例にしても、アーリーアダプターばかりの今だから平和な状態が保たれてるけど、普通に完全匿名で社会性を気にせず捨て垢で罵詈雑言吐いてストレス発散することだって、十分にできる仕組みなわけだし、本当にキャズムを超えたらこういう世界も来るよ、っていうことを暗に言ってるだけなんじゃないか、と言う風にも捉えられる。(トレント・レズナーもこういう人が実際に居たからtwitter辞めちゃったんだろう。

──今後、企業のネット戦略として有効なものがあるとしたら何でしょう?

中 例えば押尾学の事件は「押尾、やっちゃったなwwww」ってブログ上でもすぐに伝染していく。結局、ネットの興味は下世話で身近でニュース的なものに向いています。そこにヒントがある。

──......というと?

中 企業自体が編集部を作って、自社の商品情報をPVを取るような面白いニュースにして各ポータルサイトに配信すればいい。ポータルサイトも企業を取り込みたいから契約するのではないかと思います。

──PVを取るニュースとは、どんなものでしょう。

中 ポータルサイトはシビアにPVが取れる記事をトップに持ってきます。一定時間経ってPVが取れなかったらすぐに下ろす。酒井法子や押尾の記事がずっとヤフトピに乗り続けるネットの中で真面目に「このリッチなアロマテイストが......」なんて説明しても絶対読まれないし、ヤフトピにも上がらない。もっとどんどんバカなことをやってネットにすり寄っていけばいいと僕は思っています。例えば、サントリーの「プロテインウォーター」CMに出てくるゴリマッチョ・細マッチョの浴衣を製造元であるサントリーの女子社員が着てみました......とかね。

これも広報機能と広告機能をもっと融合させて結果でウィンウィン狙おうよ、というのはネットっぽい発想だと思うし、ユーザーとのコンタクトポイントを幅広く取り、より多くのアテンションを獲得したいのなら、ネットの「マス」に一番近い位置から情報発信しないと厳しいですよ、っていうのも現状では最適解だと思う。

この方、やたらキャラが偽悪的で挑発的なんだけども、言ってる内容をちゃんと分解していくと、かなり真っ当なことを言っていて、この人本当は「良い人」なんじゃないか…という釣りのニオイがする。ネット業界でこういう感じのセルフプロデュースしてる人ってあまり見た事がない。昔のマスメディアにガンガン露出してた頃のホリエモンをちょっと思わせるような方向性のアプローチ。悪役って目立つんだよ、という大衆心理をうまく突いている。
何だろう、なぜここまでやるんだろう。本売りたいだけなのかな?面白い人だな…興味津々。。

ネットはリアルな世界を残酷なまでに可視化する情報インフラでしかない

…というわけで「ウェブはバカと暇人のもの」読んでみたのですが、この本については、タイトルの「ウェブはバカと暇人のもの」と、最後の「ネットより電話のほうがすごい」云々以外はとても賛同できた。もっと偽悪的な表現で埋め尽くされてるのかと思えば、ウェブ愛(?)に溢れているし、思ったよりも実直だし、わかりやすいし、面白いし、よい本。実像とはかけ離れて歪んでしまった評価を是正したいという善意と、現場のルサンチマンが入り乱れているところも、個人的に好感が持てました。
しかし、「ウェブはバカと暇人のもの」っていう釣りっぽいタイトルは著者さんが付けたんじゃないらしいが、あんまり良くない(釣りなんだろうけど)。dankogaiさんがおっしゃるように、「ウェブは誰のものでもない(だから凄い)」が納得。
404 Blog Not Found:梅田望夫と中川淳一郎の共通点 - 書評 - ウェブはバカと暇人のもの

ネットが本当にすごいのは、本当は「だれのものでもない」はずなのに「だれかのもの」だったものごとばかりのこの世界で、本当に「だれのものでもない」を実現したことだ。道路ですら政府という「だれか」がいるのに、ネットにそれに相当する者は、誰もいない。なのに「おれのもの」にしようとする試みはことごとく排除されてきた。そうしようとした試みは何度もあったし今も行われている。Windows 95のデフォルトのネットワークプロトコルTCP/IPではなかったし、中国は今もなお「少なくとも自国のネットは自分のもの」にしようと懸命の努力をしている。

にも関わらず、少なくとも今のところは、ネットはだれのものでもない。

それがいかにすごいことなのか。

結局、ネットはリアルな世界を残酷なまでに可視化する情報インフラでしかないのだ。誰にも占有されないがゆえの結果として、「残念」なリアルもわかりやすく可視化されちゃってるよね…という話なのだと思います。

「残念」だったら、じゃあこれからどうするの?→は書いてない。

そもそも、この著者さんは現状を嘆いた先に、どういう世界が来ればいいと思ってるんだろう、または実現したいのだろう、というのがこの本を読む前の個人的な興味としてあったのだけど、それについての現実的な解答はこの本からは得られなかった。「ウェブは未来を変えない」としか書いてない。徹底したペシミズムだ。現状については書いてあるけど、未来については書いてない。
ウェブ進化論」がある一定の意思を鼓舞する役割以上のものを担っていなかったのと同じく、この本も「そんなに言う程Webって凄いの?フラットで性善説な設計で現実問題上手くいくの?」と常日頃から疑問に思っていた大人達の溜飲を下げるという、「カウンターウェブ進化論」以上の役割は果たしていないと思う。
そこが「敢えて」なのか、特に未来には感心がないから、なのかはわからない。現状最適に感心が向いてる人というのは、現場のヤリ手の方には非常に多いと思うし、逆に未来なんて常日頃から気にしてる人は現場で即戦力になるのかどうか怪しいケースも多い。

しかし、「バカと暇人」に最適化した情報を発信しながら、ネット業界をサバイブすることが楽しくてやりがいを感じているのか?と思えば、これを読む限りご本人どうも辛そうだし、「梅田望夫オプティミズム性善説」を最初の出発点としながらも、そこから減点方式に幻滅に幻滅を重ねるにつれ、そういう結論にならざるを得なかったよバカヤロー!といった感じの悲しみの顛末が綴られていた。
また梅田望夫さんも、「残念な現状があるけど、じゃあどうします?」についての現実的な回答を出すに至っていない。(こちらは敢えて、だろう)。楽観のみ語ることも、悲観のみ語ることも、そこには「自分の手」で未来を切り開こうというコミットメントの意思は無いと思う。コミットしない事自体を責める風潮もあるが、啓蒙するだけでも社会的意義は十分にある偉大な仕事だと思うので、それが悪い事だとは思わない。私は梅田望夫さんとても好きだし。
今年のトレンドはきっと、不況もあいまって、「残念」な現状を嘆き、気づきを与えることなんだろうなぁ。

自分はギリギリ、「デジタルネイティブ」と呼ばれる世代ではあるけれど、物心ついた時にインターネットはまだ身近ではなかった。自分の中で、ネットはまだ新しくて特別な存在である、というのが正直な実感だ。
物心ついたときから、既に当たり前にネットがありました、という本当の「インターネットネイティブ」がそろそろ出て来て、楽観でも悲観でもなくリアルで当たり前なウェブの世界を切り開いてもいい頃なんじゃないかなと思う。今中学生くらいの世代だろうか。「ウェブ進化論」で始まったオッサン達の「Web2.0幻想」は「バカと暇人のもの」の幻滅で幕を閉じる。この先にあるのは世代交代なんじゃないかという予感がする。

「ウェブは誰のものでもない」けれど、強いて言うなら、「ウェブの未来は若者のもの」だと思う。

飽きるの早いよね、という余談。

あと、余談ですが、「バカと暇人」向けのWebの情報やサービスの消費スピードってホント半端ないよなぁ。マスメディアはのりピーネタでどんだけ長く引っ張れるんだ…twitter居るとのりピーネタ1日で飽きちゃう。iPhoneアプリもネタ的に面白いアプリとか最初食いつくけどすぐ飽きちゃう。「バカと暇人」のWeb世界は、悲しいほどに諸行無常だと思う。
瞬間最大風速な快感だけで、実生活にまるで役に立たない情報やサービスというのはWeb上では廃れるスピードもやたら早いと感じることが多い。逆にリアルの生活を継続的にエンパワーしてるサービスって、みんな飽きる様子もなく長く続いてるが、実用的一辺倒だと普及までに時間がかかる感じもする。

これも面白いポイントだと思う。